何回聞いても飽きないレコード(Feb.2011)

 
 あなたは10年以上、毎日8時間、ボサノヴァだけを聞き続けたという経験はありますか?

 もちろんないですよね。

 それが私はあるんです。
 ボサノヴァがかかるバーで10年以上、働いているわけですから。

 毎日毎日、10年以上、8時間、ボサノヴァを聞き続けたらどうなると思いますか。はい、とても飽きてしまうんです。もうとにかくボサノヴァを聞くのが苦痛になってしまうんです。

 しかし、営業上、どうしてもボサノヴァをかけなくてはなりません。色んなボサノヴァのアルバムをかけます。すると「何回聞いても退屈しないやっぱり良いアルバム」というのが浮かび上がってくるんですよね。

 「何回聞いても飽きない」、「何回聞いても何か新しい発見がある」、そういうアルバムってやっぱり世の中に存在するものなんです。

 今回はそんな「10年以上、何度聞いても飽きなかったボサノヴァ・アルバム」を紹介しようと思います。

 
 まず何回聞いても飽きないボサノヴァ・アルバムの、文句なしのダントツ一位が「ゲッツ/ジルベルト」です。「え〜?」と思って、もう読むのをやめようとした人がたくさんいるのは理解します。しかしですね、これは自分の経験なんですよね。このアルバムは今でも毎日聞いていますし、ずっと昔から何度も聞いているので本当に1万回くらいは聞いているかもしれないのですが、でも、全く飽きません。理由はよくわかりません。でも毎回毎回、「ジョアンのギターの疾走感が格好いい!」とか「ジョビンのピアノの音数少ないのが最高にクール!」とかって思っちゃうんですよね。

 次に何回聞いても飽きないのは「ジ・アストラッド・ジルベルト・アルバム(アストラッドのファースト)」です。このアルバムも毎日聞いています。A面2曲目の「おいしい水」なんてホント何万回も聞いているはずですが、毎回毎回「良いヴァージョンだなあ」と感心します。ちなみに、このアルバムはアストラッドのソロ・アルバムではなくて「アストラッド&ジョビン」なんだと解釈しています。ジョビンの関与。それこそがこのアルバムの豊かさの理由なんだと日々感じています。

 その次に何回聞いても飽きないのはジョビンの「ストーン・フラワー」です。「WAVE」も結構飽きません。でも「ストーン・フラワー」にはかないません。「TIDE」は一度ははまるのですが、やっぱりこれは「ストーン・フラワーのアウト・テイク集」という噂は本当なのかもと感じるくらい印象が散漫で、ちょっと聞けなくなります。もしかして飽きてしまう理由は「デオダート臭」が問題なのかもしれません。

 あと、ジョアンは「三月の水」と「ブラジル」がやっぱり何回聞いても飽きません。「アモローゾ」は5千回くらい聞くとちょっと飽きてきます(特にベサメ・ムーチョの存在が飽きる理由かも…)。これは10年以上毎日毎日聞いてきたリアルな感想なのですが、「オデオン3枚」と「En Mexico」は意外と飽きます。あと、申し訳ないのですが、近年のはどれも千回くらいで飽きてしまいます。すいません。

 ジョビンのCTI以外は「ザ・コンポーザー・オブ・デザフィナード・プレイズ」と「マチタ・ペレ」が意外と飽きません。「それはオマエが好きなんだろ」と言われそうですが、そういう意味ではジョビンのアルバムは正直、全部が好きなんです。例えば「アントニオ・ブラジレイロ」とか「パッサリン」とか何千回も聞いているんです。でもやっぱり何千回も聞いているとさすがに飽きてくるんですよね。これまた自分のリアルな体験です。

 ボサノヴァ名盤と言えば、ポール・ウインターとカルロス・リラの「ザ・サウンド・オブ・イパネマ」がありますよね。このアルバム、CDで2回買ってるし、LPでも3回買ってるんです。ジャケットも含め、文句なしのボサノヴァ名盤だとは思うんです。しかし、しかしですね、このアルバム、あなたは2千回くらい聞いたことはありますか? 印象で言うと2、3千回くらいで飽きてきます。うーん…

 同じくこの手のボサノヴァ名盤と言えば、ジョアン・ドナートの「ムイト・ア・ヴォンタージ」、パシフィック盤だと「サンボウ・サンボウ」です。これまた文句なしの名盤ですが、これも3、4千回くらいで飽きてきます。飽きてきてもかけると「やっぱり格好いいな」と思うのですが…

 カエターノとガルの「ドミンゴ」もこの手の名盤です。これも本当に好きなんですよ。確か17、8年くらい前にCDになったと思うんですが、ホント全部歌えるくらい聞き込んだし、もうあれから何回買ったかわかんないくらいなのですが、これも5千回くらい聞くと飽きてくるんですよね。すいません…

 一方で「エリス&トム」ですが、これが意外と飽きないんですよね。おそらくもう5千回以上は聞いているはずなんですけど、まだまだ飽きません。「自分の好み」という意味では前にあげた3枚の方がよっぽど好みなのですが、なぜか「エリス&トム」の方が飽きないんですよね。これまた理由はわかりません。今でも毎日聞いてて新たな発見があります。

 あるいはタンバですが、本当に好きなんですが、これまた2千回くらいで飽きてしまいます。「?」と思っている方、タンバ・トリオのどれかのアルバムを千回聞いたことありますか? 毎日1回聞いたとして3年間ですよ。感覚としてはタンバは2千回くらいで飽きてきます。


 「オマエの好みだろ」と言われたらそれまでなのですが、「いわゆるみんなが認めるボサノヴァ名盤というわけではないけど、3、4千回くらいは聞いたと思うんだけどまだ飽きないなあ」というアルバムをあげてみます。

 まずギル・ゴールドスタインの「インフィニト・ラブ」。これはたぶん5千回くらいは聞いていると思うのですが、まだまだ飽きません。理由はわかりません。

 ワンダ・サーとセリア・ヴァスの「ブラジレイラス」。これも3、4千回は聞いていると思うのですが、いまだに飽きたという感じはありません。

 これは人によっては「ボサノヴァ名盤」なのかも知れないのですが、オス・ガトスのセカンドも何回聞いても飽きません。ファーストの方は2百回くらいで飽きるのですが、セカンドは3、4千回聞いても飽きません。これまた理由はわかりません。

 あと、マルシア・ロペスの「ボニータ」というアルバムはご存知ですか? 個人的にサンパウロ勢の大名盤と常々思っていて、お店でもしょっちゅうかけてて、10回に一回は「これ誰ですか?」と質問されるアルバムなんですが、このアルバムも本当に飽きません。実はエドゥアルド・グヂン御大のアルバムは意外とすぐに飽きてしまいます。が、このアルバムは飽きません。これまた理由はわかりません。

 モニカ・サウマーゾとパウロ・ベリナッチの「アフロ・サンバス」。これも全く飽きません。毎回毎回鳥肌が立ちます。このアルバムは「ボサノヴァの演奏しているんです」というお客様が来たら必ずかけています。これでリアクションしない演奏家、あるいは歌い手はあまり信用しないことにしています。

 ナナ・カイーミの1975年のcid盤はご存知でしょうか? ブルーのジャケで「ポンタ・ジ・アレイア」で始まるアルバムです。これも飽きません。ナナ・カイーミは色々と名盤がありますよね。エレンコ盤、アルゼンチンのトローヴァ盤、もちろんEMIのミラクルなあの世界も。でもですねえ、このcid盤が一番飽きなくて毎回「良いなあ」と思っちゃうんですよ。裏ジャケを見て「あ、そうか。これピアノがテノーリオなんだ」とか何度も何度も発見があるんです。飽きないんですよね。これまたさっぱり理由はわかりません。ちなみに「俺ブラジル音楽大好きなんですよ」という人が来たら必ずこれをかけます。その時これにリアクションしない人とはあまりブラジル音楽の話をしないことにしています。

 
 ただなんとなくダラダラとアルバム名をあげてしまいましたが、どうでしょうか。

 「お、このアルバム良いなあ」と思って毎日何回も聞き続けることってありますよね。でも経験上、100回くらい、期間でいえば2、3ヶ月毎日聞き続けたらまあ飽きてしまうんですよね。1枚ワンシーズンって感じでしょうか。これが1000回、2000回も聞いて飽きないってすごいことだと思うんです。

 で、やっぱり「ゲッツ/ジルベルト」って何回聞いても飽きないんですよね。本当に理由はわからないのですが…

 

[← 目次にもどる]