LPがよみがえる日(Mar.2010)

 
 私のある友人がいかにして音楽ソフトを買わなくなったかという話を紹介します。
 
 彼はすごく音楽好きです。買ってたときはCDやLPに月に5万から10万円くらいは使っていたはずです。そんな彼がなぜ?
 
 まず最初のつまずきはIPodを買ったことのようです。彼は年に数回、仕事で海外旅行に行きます。そして日常的に車を運転します。そのためにCDを何枚も持ち運ぶのは面倒だからIPodを購入したそうです。始めのうちは以前のようにCDを買って、それをPCに取り込んでIPodに移していたそうです。元々パッケージ音楽ソフトが好きなタイプなんです。
 
 その次のつまずきです。自分だけは配信で音楽なんて買わないと思っていたのに配信で音楽を買うようになったんだそうです。理由は1.「結局はIPodで聴くんだからいちいちCDをPCに取り込むのが面倒くさくなった」2.「街にCD店が少なくなってきたのと品揃えが豊富なお店がなくなってきた」3.「インターネット上の方が刺激的な現在進行形の海外の音楽にすぐアクセスが出来る」4.「配信の方が安いし場所をとらない」
 
 その次がさらに問題を深くしています。インターネット上で音楽を入手するのに慣れてきたら、実は違法サイトで無料の音源を簡単に入手出来る方法がわかってきたそうなんです。で、これが日常的になってしまうとCD店に行って2、3千円のCDはもう買えなくなってしまったんだそうです。
 
 なるほどなあ、です。よく耳にするのは彼のように音楽好きであればあるほどネット上で音楽を入手する方に向かってしまうようなんですよね。今、二十才以下の若い人とかはすごく音楽好きなタイプでもCD再生装置を持っていないのなんて普通なんだそうですね。

 これ、IPodが全ての元凶なんだと思うんですよ。

 最近、聞いた話です。ある常連のお客様の友人がカフェを始めることになったそうなんですね。で、私がそのカフェのコンセプトなんかを聞いていて「音楽はどうするんですか?」と訊ねました。するとこんな答えが戻ってきました。「なんか友達ですごく音楽が詳しい人がいて、その人にIPodを作ってもらってそれをかけるみたい」。なるほど、昔は「お店でかけるCDR作って」ってよく言われたのに最近はあまり言われないなあと思っていたら今は「IPodを作ってもらう」んですね。

 職場でもそんな感じらしいです。以前はラジカセやステレオがあったらみんなはCDや編集MDなんかを持ってきてましたよね。それが今は自分のIPodを接続して「どう、俺の音楽の趣味?」って感じになるそうなんです。

 で、私は実はIPodには絶対に行かない自信があるんです。まず移動中に音楽を聴く習慣がないのと、いまだにLPも買っているのでそれを取り込むのが面倒くさいという理由です。

 しかし、みんながIPodに行く気持ちすごくわかるんです。というのは今、IPadやキンドルが話題になってますよね。あれ、自分も購入してしまいそうなんです。私は移動中や(一人の)食事中、お店の暇なときなんかはとにかく読書タイムなんですね。でも、その瞬間なんとなくしっくりいかない本って絶対にあるから常に保険で3、4冊は持ち歩いているんです。結構重いんですよね。これがあの機械一つになれば良いなあ、なおかつ自宅の本が増えて妻に「捨てるか売るかなんとかして」って怒られなくてすむし、良いことだらけかも、なんて思うんです。で、「そうか、だからみんなIPodユーザーでCDを買わなくなっちゃうんだ」と理解できるわけです。

 で、ですね、提案です。CDも配信も出さずにアナログレコードだけしか出さないアーティストが出てこないかなあなんて夢見るんです。昔、「俺は絶対にCDには移行しないぞ」なんて言ってた人たちがいた頃、ローリング・ストーンズが新譜をCDでしか出さなくて、オジサンも含めみんながCDに移行したのを覚えていますか? あんな感じでアナログレコードだけしか出さないアーティストなんかが出てこないかなあ、なんて思うのです。今が最後のチャンスだと思うんですよね。まだまだアナログレコードを日常的に聴いている人たちってたくさん生きていますから…

 これはよくある「アナログへの懐古趣味」じゃないんです。パッケージ音楽文化を次の世代に残すための積極的な方法なんです。

 そうなると、CD時代(1990〜2010)っていうのが逆に「なんだか変だった20年間」という風に後の時代の人たちには認識されるわけです。「ああ、このアーティストって0年代だからレコード出てないんだよね。ほら、あの銀色のディスクなんだよ。あれを読みとる装置って今ないじゃん」って感じです。で、そんな埋もれてしまったCDをレコード会社がリイシューLPで発売したりするわけです。「祝! 再発LP化」なんてコピーがレコード店に並ぶわけです。

 だめですかねえ? 最後の悪あがきでみんなでレコードへと移行するというのは…


追記:これは冗談だけど、結構マジです。試しにジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾの新譜なんかをCDと配信なしでLPだけで出したりしたらターンテーブルを買う人結構いると思うんですけどね。でも、CDというフォーマットを愛していて真剣に取り組んでいる人がいたらすいません。CDがダメという訳じゃないんです。パッケージ音楽ソフトがなくなるのがいやなんです。「パッケージ音楽ソフト」がなくなるなんて寂しくないですか?

 

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