トリオ202が良い!(Oct.2008)

 
 今、「音楽好き」な感じがダサいそうです。
 音楽にすごく詳しい人とか、DJをやっている人とか、ミュージシャンとかがイケてないそうです。もう少しわかりやすく説明してみます。例えば都心のお洒落なバーやレストランで、ミュージシャンが入ってきたとします。そんな時、そのお店のお客さん達がいっせいに「オーッ!!」となるようなミュージシャンって、今の時代はちょっと想像できないですよね。例えば一昔前なら坂本龍一とかユーミンとかが入ってくるとお店全体が「オーッ!!」ってなったと思うんです。でも今だと20代くらいの若い人達だと「坂本龍一って誰?」って感じですよね。じゃあ今流行っている人で、例えばエグザイルとかパフュームとか入ってきても「オーッ!!」とはならないですよね。じゃあ今だとどんな人が入ってくると「オーッ!!」となるのか?スポーツ選手らしいんですよね。例えば北島康介が青山のレストランに入ってきたとします。そのレストランのお客さん達はどれだけスカシていても、やっぱり店中が「オーッ!!」ってなると思うんです。イチローとか中田とかでもやっぱり「オーッ!!」ってなりますよね。要するに今ミュージシャンはセクシーじゃないんです。そしてスポーツ選手の方がセクシーなんですよね。
 そう、セクシーという言葉で考えるとわかりやすくなります。3,40年前ならジャズのレコードをたくさん持っていてタバコとコーヒーを飲みながら色々とレコードを聴かせてくれるちょっと年上のお兄さんってセクシーでしたよね。でも今ならジャズのCDをたくさん持っていて何かと詳しい人ってはっきりいってオタクにしか見えないし、全然セクシーじゃないんです。あるいはミュージシャンです。バンドブーム以前、要するに80年代の初頭まではギターを肩から下げている感じってとてもワルっぽくてセクシーだったと思うんです。でもバンドブーム以降、バンドをやることが当たり前な時代になってからは街でギターを持っている感じってすごく健康的でマジメそうで、全然セクシーじゃなくなってしまったんですよね。ではDJです。DJもちょっと前まではとてもセクシーな存在でした。私、林は個人的にはバンド・ブームのど真ん中の世代なので、ギリギリDJという行為を経験していません。だから、90年代の初め頃、始発の電車とかでレコードの箱をコロコロ転がしている男がムチャクチャ可愛い女の子を横に連れていたりするのを見ると「ああ、DJってもてるんだなあ」とよく悔しがったものでした。しかし現在、始発電車でDJらしき若者を見かけても、隣に可愛い女の子はいません。同じDJ仲間のいけていない男友達が隣にいて音楽の話しを楽しそうにしているだけです。そう、もうDJもセクシーじゃないんです。

 先日、ある大手セレクト・ショップの広報部部長からこんな話しを聞きました。今、「服が好きな感じ」ってダサいそうです。ええと、よくわかんないですか。言い直します。今は、服や小物、ファッション全体にすごく興味があって、上から下までバシッときまっている感じってとてもイケてないそうなんです。オシャレな感じが逆にオシャレじゃないそうなんです。で、今一番イケてない感じはセレクトショップのスタッフでDJもやっているってタイプの人間なのだそうです。うーん難しい時代に突入していますよね。その彼と私と話し合ったことを紹介しながら、もう少しわかりやすく説明してみます。今はファッションとか音楽といった表面的な表層的なコトに対して夢中になっていることがオシャレじゃなくなっているんです。じゃあ何に夢中になっているのがオシャレなのか。もっと本質的なコトに対して夢中になっているのが今の時代的なんです。例えばヨガとか走ることとかで自分の体を管理したり鍛えたりしていること。海や山、野菜作りや田舎暮らしに向かって自然を近く感じること。食や医療といった本質的なことに気をつけること。そして家族や友人、地域社会や国のこと、そして地球のことなんかを考えること。こういう感じが今の時代的であり、オシャレなんです。

 「なるほどなあ」って感じですよね。なんとなく肌で感じていたことがやっと言葉で理解できたような気がします。これじゃあCDも洋服も雑誌も売れないはずです。
 しかしホントに音楽って表面的で表層的なモノなのでしょうか。「ほっこりした生活」や「世界で一番速く走れること」が本当に本質的なコトなのでしょうか。だったら私が中学生の頃、ステレオ装置の前でレコードの歌詞カードを見ながらいっしょに歌ってついつい泣いてしまった時間は表層的なことだったのでしょうか。今でもやっぱりレコード屋さんに通い「なんか最近良い音楽全然ないよなあ」なんて思いながら、半年に一度くらい突然すごいアルバムに出会い「うわーカッコイイ!最高!!」なんて思っている行為って本質的なコトじゃないんでしょうか。疑問です。

 しかしこの状況、アパレル業界や雑誌業界のことはわからないのですが、音楽業界のことに関してははっきりした理由があると私は思います。やはり音楽を作る側、発信する側、それを紹介する側があまりにも音楽への愛がなさすぎなのではないでしょうか。音楽を発信している側は「本当に自分が好きで、自分も聴きたいような、自分も感動するような音楽」を作っているでしょうか。中学生のあの頃の自分が感動するようなあの音楽のことです。すごく偉そうで申し訳ないのですが、私自身も最近は音楽を紹介する側になりつつあるので、自分への戒めもこめてちょっとこんなことを言ってみました。

 さてさて、そんな音楽状況で紹介したいのがトリオ202というグループです。このグループ、全くオシャレではありません。音楽的に革新的であったり、すごく新しい感覚があったりする訳でもありません。とにかく楽器が上手いブラジルのオジサン3人組が、すごく美しい曲をとても楽しそうに、そう本当に音楽を楽しみながら演奏しているだけです。このアルバムを聴いていると自然と身体が揺れてきます。美しいメロディとハーモニーが突然襲い掛かってきて、うっかり涙腺があやうくなったりもします。ただそれだけです。このアルバム、ギル・ゴールドスタインのインフィニト・ラヴやルイス・エッサの再開やモアシル・サントスのオウロ・ネグロなんかが好きな人には是非オススメします。あれ、この3枚のアルバムは全部ディア・ハートですね。ディア・ハートさん是非国内盤お願いします。伊藤ゴローさん、昔ゴローさんに教えてもらったウリセス・ホーシャもメンバーです。宮田さんに会ったらプッシュしておいて下さい。そうそう、中島ノブユキさんも「これ生で見たいね」と言ってましたよ。
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