ラジオ第4回目(Dec.2007)

 
 バール・ボッサへようこそ。店主の林伸次です。バール・ボッサは東京渋谷のボサノヴァが聴ける小さなバーです。今日はあなたもまるでバール・ボッサでお酒でも飲んでいるような気持ちで、アナログ・レコードやCDでかけるボサノヴァを2時間たっぷりとお楽しみ下さい。
1.MPB4&quarteto em cy/noites cariocas
2.doris monteiro/conversa de botequim
3.elis regina&pele/perdao,nao tem
4.marcos valle/nao pode ser
5.os catedraticos/muito a vontade
6.gemini cinco/que bandeira
7.os bossa tres&jo basile/bossa nova guitar
8.os cariocas/devagar com a louca
9.maria creuza/com que roupa
10.djavan/samba dobrado

 音楽ファンには大きく分けて2種類のタイプがあります。ひとつは常に最新の音楽を求め続けるタイプです。このタイプは「今ブラジルではこういう音楽が流行っている」とか「ロンドンやNYのクラブでは云々」、あるいは「誰々の新譜はいまひとつだった」というように世界の現在進行形の音楽を常に敏感に感じとる人たちです。そしてもうひとつのタイプは「自分はこの時代のこのジャンルの音楽が好きだからそれだけを集中して聴くのが幸せだ」という人たちです。今回のゲスト選曲家の高木洋介さんは典型的な後者のタイプです。彼は1950年代の後半から1960年代の中期くらいまでのブラジル、リオ・デ・ジャネイロで活躍したジャズ・サンバ・ピアノ・トリオのレコードを中心軸にして聴いています。彼はその時代以降のベースやピアノがエレクトリックになった音楽には一切興味を持ちません。そして同時代でもストリングスやホーンセクションが多くなる音源になってしまうと、それにも興味を示しません。そういう聴き方をしてしまうと自然と入手可能な音源は限られてしまうので、彼はどうしても「テイク違いが入ったアルバム」や「シングルのみに収録された曲」なんかを集めてしまうことになります。そういう傾向を持ったタイプのリスナーを普通は「おたく」と呼ぶのですが、高木さんの素晴らしさは「おたく」なのにとてもバランスが良いことです。そしてそれは今回の選曲を聴いてもわかってもらえると思います。では聴いてみましょう。
11. Tamba Trio / Chico Anisio Show
12. Marly Tavares / Pot-Pourri
13. Tenorio Jr. Trio / Embalo
14. Johnny Alf / Rapaz de Bem
15. Antonio Carlos Jobim / Agua de Marco
16. Conjunto Oscar Castro Neves / Barbalanco
17. Tamba Trio / Nao Faz Assim
18. Sergio Augusto / Deixa Pra La
19. Geraldo Vespar / Samba Novo
20. Tamba Trio / Samblues
21. Mitchell & Ruff / E Nada Mais

 高木さん、どうもありがとうございました。

 ボサノヴァはブラジルのリオ・デ・ジャネイロで1958年に誕生し、その後世界中に広がっていきました。もちろんこの「ボサノヴァ」という音楽に世界中のミュージシャン達がとびつき、彼らなりの方法で色んな「ボサノヴァ」が演奏されました。日本人が「カレーパン」や「ハヤシライス」といった面白い食べ物をつくりあげたように、アメリカ人やフランス人が演奏する「ボサノヴァ」もなかなか素敵なものがたくさんあります。今日はその辺をちょっと聴いてみましょう。
22.pierre barouh/samba saravah
23.the singers unlimited/someone to light up my life
24.gary burton/chega de saudade
25.oscar peterson/wave
26.gerry mulligan/preludio in E minor
27.rachel gould & chet baker/phil's bossa
28.vince guaraldi/oh,good grief!

 先日、バール・ボッサに寿司屋の大将が来た。寿司屋の大将は大体オーガニックワインを好んで飲む。私がちょっとからかい気味に「オーガニックワインが好きだなんて大将もお洒落ですね」と言うと、「何言ってやがんでい、マスター。フランス・ワインって言っても田舎の畑で土耕して作ってんだろ。農家が作った飲み物にお洒落もへったくれもあるもんかい」とバッサリ切ってしまった。寿司屋の大将は何だかカリカリしているようなので「お客さんと何かあったんですか?」と私は質問してみた。すると寿司屋の大将は「聞いてくれるかいマスター。いやね最近の若いお客はみんな『何かオススメはないですか?』って注文するんだよ。そんなねえ、うちのネタケースに入っている魚は全部オススメに決まっているじゃない。だから『オススメじゃないものなんておいてねえよ。お客さんが好きなもの注文して下さい』って言ってやるんだよね。すると何だかみんな困った顔しちゃうんだな、これが」「なるほど、そんな感じ僕にもわかります。僕もバール・ボッサで『なんかオススメのボサノヴァのCDないですか?』ってよく質問されるんです。『いやあなたの音楽の好みなんて全然わかんないからオススメしようがないです』なんて答えられないですしね。どうしてなんでしょうねえ。やっぱり現代社会は情報が多過ぎてみんな自分の力では選びきれなくて誰かにススメテもらいたがっているんですかねえ」と私。するとしばらく考えていた寿司屋の大将がこう答えた。「なるほどな。なんでみんなが『オススメしてくれ』って言ってんのかがやっとわかったよ。みんな色々試してもっと失敗すりゃいいのにな。そんな失敗を繰り返してこそ自分が好きなものがはっきりしてくんだけどなあ。で、マスター、なんかオススメのCD、ちょっとかけてくれる?」

29.nara & menescal/o negocio e amar
30.rosa passos/inverno
31.trio peranzzetta/preludio#1(ヴィラ・ロボスのブラジル風バッハ4番より)
32.paulo bellinati & monica salmaso/canto de ossanha
33.antonio carlos jobim/chansong
34.wanda sa & celia vaz/amazon river
35.eduardo gudin/som conuistador
36.joao gilberto/aquarela do brasil

今日は2時間お付き合い下さり、どうもありがとうございました。また来月、ラジオ・バール・ボッサにご来店お待ちしております。

 

[← 目次にもどる]