ラジオ第3回目(Nov.2007)

 
 バール・ボッサへようこそ。店主の林伸次です。バール・ボッサは東京渋谷のボサノヴァが聴ける小さなバーです。今日はあなたもまるでバール・ボッサでお酒でも飲んでいるような気持ちで、アナログ・レコードやCDでかけるボサノヴァを2時間たっぷりとお楽しみ下さい。

1.astrud gilberto with walter wanderley trio/tristeza
2.doris monteiro/mudando de conversa
3.conjunto oscar castro neves/gosto do seu olhar
4.ed lincoln/ali tem
5.cesar costa filho/como formiga
6.emilio santiago/batendo a porta
7.danilo caymmi/racha cartola
8.vinicius & toquinho/a tonga
9.nara leao/penar

 私はバーテンダーという仕事をはじめてもう13年になるのですが、「この人の接客サービスには負けてしまうな」と感じてしまう人が3人います。そのうちの一人が宿口豪さんという方です。この豪さんが渋谷の道玄坂を上がって左側に折れたあたりで「バー・ブレン・ブレン・ブレン」という素敵なバーを経営しています。かかっている音楽は黒人濃度の高いバイーアや現在進行形のブラジルのダンス・ミュージックといったブラジルの中のアフリカを感じるものが中心です。サンバやボサノヴァのライブ、あるいはDJイベントなんかもやっています。しかし、このお店の一番の魅力は豪さんの接客スタイルです。ブラジル音楽やお酒が大好きという人にもこのお店は最高ですが、「他人とのコミュニケーション」ということを考えている人にも是非おすすめできます。そんな豪さんが今日はこの「ラジオ・バール・ボッサ」のために5曲、選曲してくれました。聴いてみて下さい。

10.daniela procopio/quase lenda
11.gisella/azul de passagem
12.levy/uma copacabana
13.paula lima/let's go
14.preta gil/espelhos d'agua
豪さんありがとうございました。

 ボサノヴァはブラジル国内においては1960年代の半ば辺りからはあまり演奏されなくなってしまいます。ブラジルの音楽好きの若者たちも、全世界がそうであったようにビートルズやジェイムス・ブラウンなんかが好きになったわけです。1960年代の後半からはそんなロックやソウル・ミュージックの影響を受けたブラジル音楽が現れ出します。デビュー時はボサノヴァ・アーティストとして登場したミュージシャンも彼らなりに時代のサウンドを取り入れ後のジャズ・フュージュンに通じるようなファンキー路線へと移行しだします。その時期のブラジルのサウンドは現在の東京で聴いても新鮮なサウンドです。今日はそのあたりをちょっと聴いてみましょう。

15.wilson simonal/eu fui no tororo
16.antonio adolfo e a brazuca/julina
17.joao donato/cade jodel
18.tamba trio/3 horas da manha
19.johnny alf/olhai
20.marcos valle/nao tem nada nao
21.eumir deodato/arranha ceu
22.som tres/irmaos coragem

 先日、深夜の2時ごろに売れない作曲家がバール・ボッサに来店した。売れない作曲家はシングルモルトのウイスキーを同量の常温のミネラルウオーターで割ったものをちょっと大きめのグラスで飲む。なかなかこだわりがある人なのだ。売れない作曲家は当然のように現在の日本の音楽状況にいつも苛立っている。「今の日本人には俺の作る音楽の偉大さが理解できないんだ。俺は完全に生まれてくる時代と場所を間違えてしまった。俺の音楽が日本で理解されるには後100年は必要かもしれないな。林くんもそう思うだろう?」「そうかもしれないですね」と私はいつも適当に相槌をうつ。どうせ100年後は私もこの売れない作曲家も生きていないんだ。そして私はちょっと試しにこう言ってみた。「でもリスナーはやっぱり覚えやすくてキャッチーなメロディとか泣けるコード展開とかを求めているんじゃないんですか。そういう曲は書かないんですか?」するとその売れない作曲家はこう答えた。「キャッチーなメロディとか泣けるコード展開とかに何の意味があるんだ。俺は大衆のために曲を書いているんじゃない。芸術のために書いているんだ」「なるほど」と私。そこで私は「ゲッツ/ジルベルト」という1963年にNYで録音された有名なレコードを取り出しながらその売れない作曲家にこう切り出した。「あのう、アントニオ・カルロス・ジョビンとニュウトン・メンドーサが書いた『デザフィナード』という曲があるんです。この『デザフィナード』という言葉は『音痴』とか『調子っぱずれ』とかっていう意味なんですね。で歌の内容はこんな感じなんです。『僕のことをいつも音痴だって君は言うよね。その言葉にいつも僕がとても傷ついているのは知っている?そりゃ君の耳はエリートで素晴らしいよ。でもこんな僕の下手くそな歌にも心はあるんだ。君はその音楽とやらにうつつを抜かして一番大切なことを忘れてしまったんだ。音痴の人の胸の中にだって静かに静かにハートが響いているんだ』こんなちょっと切ない内容の歌なんですけど、実はこの曲ってすごく難解な構造の曲になっているんです。だから本当に下手な人がこの曲を歌うととんでもなく下手に聞こえてしまう難しい曲なんです。でも、ぱっと聴きだとそんなに難しい曲には聴こえなくてとても覚えやすくて楽しい曲に聴こえるんです。だからこの曲は1960年代にアメリカのジャズ・ミュージシャンに何度も何度も演奏されていて、今でもとても人気のある曲なんです。こういうユーモアも知性もある曲を私は芸術だと思うんですけどどうですか?ちょっと聴いてみましょうか…」

23.joao gilberto & stan getz/desafinado
24.nana caymmi/inutil paisagem
25.miucha/lugar comum
26.os gatos/verdade em paz
27.rosinha de valenca/ate londores
28.baden powell/blues a volonte
29.joao donato/depois do natal

 

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