ラジオ第2回目(Oct.2007)

 
 バール・ボッサへようこそ。店主の林伸次です。バール・ボッサは東京渋谷のボサノヴァが聴ける小さなバーです。今日はあなたもまるでバール・ボッサでお酒でも飲んでいるような気持ちで、アナログ・レコードやCDでかけるボサノヴァを2時間たっぷりとお楽しみ下さい。

1.edson & tita/amor eterno
2.maria creuza/outra ves bahia
3.doris monteiro/maita
4.dick farney & lucio alves/tereza na praia
5.os farroupilhas/azul contente
6.mitchell&ruff/deixa pra la
7.tamba trio/sonho de maria
8.luiz eca/imagem

 ブラジルにはショーロという音楽があります。ヨーロッパ人が持ち込んだワルツやポルカといった舞踏音楽をアフリカから連れてこられた奴隷ミュージシャン達が演奏しているうちに、アフロ・ブラジル人特有のリズムやインプロヴィゼーションが付け加えられて発達したという音楽です。北アメリカのジャズの発生過程と少し似ていますがこのショーロはジャズよりも数十年も時代が早い1870年代から演奏されています。このショーロは一度は廃れてしまいますが、その後何度も復興運動がありブラジルの民衆の間で現在でも演奏され続けています。もちろんこの音楽に色んな音楽家が影響を受けているわけですが、クラシックの作曲家ヴィラ・ロボスやジョビンの師匠的存在のハダメス・ニャターリ、そしてもちろんジョビン本人もこのショーロという音楽を彼の長い音楽キャリアの中で何度も取り上げています。こういう音楽は難しい説明よりも聴くのが一番です。今日はこのブラジルならではの美しい音楽ショーロにちょっと耳を傾けてみてください。

9.paulinho da viola/sarau para radames
10.radames gnattali/meu amigo tom jobim
11.antonio carlos jobim/meu amigo radames
12.gilson peranzzetta/valsa francesa
13.baden powell/lamento
14.antonio carlos jobim/choro
15.rosa roxa/luciana
16.antonio carlos jobim/carinhoso

 昔、伊藤ゴローさんがトニーニョ・オルタの「マヌエル・オ・アウダス」という曲を教えてくれました。この曲はトニーニョ・オルタがまだまだ無名の頃の1976年に、同じくまだまだ無名のベト・ゲジスとダニロ・カイーミ、ノヴェーリという若くて才能あるミュージシャン達と出したアルバムに収録されています。この曲のことを伊藤ゴローさんは「ビートルズ10枚分の価値がある名曲」と表現しました。ちなみにゴローさんはビートルズの大ファンです。中島ノブユキさんがこの名曲を次回のアルバム「パッサカイユ」で取り上げると聞いてからは久しぶりに「何かの新録を待ち続ける気持ち」を味わいました。というのは、中島ノブユキさんはもちろんオリジナル曲も美しいのですが、既存にある曲を彼独自のセンスでアレンジし直し、「この曲にはこんな魅力が詰まっているんだよ」と教えてくれるという技術が彼ならではの魅力だからなんです。
 これから実際に聴いていただくと、言葉で説明するよりもはっきりと理解してもらえると思うのですが、中島ノブユキさんのアレンジは曲に新しい風を吹き込みます。「マヌエル・オ・アウダス」は春の高原から風が吹いてきますし、「ユーリディスのワルツ」は荒々しく私達の心をつかみとっていく風が吹きます。そして「フォトグラフ」は月から吹いてくる優しい夜風が、また「ディス・ハッピー・マッドネス」からは初恋の甘酸っぱい果実の香りをのせた風が吹いてきます。
 今回はボサノヴァのスタンダードなヴァージョンを先に聴いていただいて、その後に中島ノブユキ・ヴァージョンを聴いてもらいます。中島ノブユキさんの音楽から吹いてくる風をちょっと感じてみてください。

17.toninho horta/manuel o audaz
18.中島ノブユキ/マヌエル・オ・アウダス
19.baden powell/valsa de euridice
20.中島ノブユキ/ユーリディスのワルツ
21.silvia telles/fotografia
22.土岐麻子/フォトグラフ
23.frank sinatra & antonio carlos jobim/this happy madness
24.多和田えみ/this happy madness


 先日、夜の11時頃、38歳になった静香ちゃんが来店した。38歳になっても相変わらず静香ちゃんは美しい。「何かさっぱりしてて、あまりアルコールが高くないものを下さい」と注文したので私はミントがたっぷり入ったモヒートを出した。結婚していて家庭もある女性が夜遅く一人でバーに来るということは、絶対に何か問題がある。私はさりげなく静香ちゃんに話し掛けてみた。「最近、のび太くんとは上手くいっているんですか?」「あ、あの人、半年前にリストラにあったんです。その後ずっと再就職先を探しているんですけど、なんか、全然ダメなんです。昔だったらドラちゃんになんとかしてもらったんだけど今はそういうわけにはいかないし…」と静香ちゃん。「うーん、のび太くんってそういうこと不器用そうですよね。」と私は相槌を打つ。「あのね、みんなには秘密なんだけど私実はデキスギさんと大学生の頃、付き合ってたことがあったんです。彼、卒業したら結婚しようなんて言ってくれてたんだけど、結局は社会人になっちゃうとお互いに違う世界が出来て忙しくなってなんとなく別れてしまったんですね…。でもこの間、突然デキスギさんから電話があったんです。彼、今、有名な商社で勤めていて、最近までずっとフランスで暮らしていて、来年からはカナダ行きが決定しているそうなの。ほら、昔、ドラちゃんが『もしあの時、こっちの道を選んでいたら人生はどうなっていたか』っていうのが見える不思議な道具を出してくれたことあったじゃない。私、デキスギさんの電話を切った後、もしデキスギさんと結婚していたらどうだったんだろうって想像しちゃって…」と静香ちゃん。私はこう質問してみた。「でも静香さんはのび太くんを愛しているんですよね」すると静香ちゃんはこう答えた。「愛って何なんですか?」そこで私は小野リサさんの「ナモラーダ」というCDを取り出しながらこんなことを話した。「あのう、ジョニー・アルフというボサノヴァ前夜から活躍しているピアニストがいるんですけど、その人がすごくロマンティックな曲を作っているんです。『オ・ケ・エ・アマール?愛するって何なの?』っていう曲なんですけど、この曲でジョニー・アルフは『愛するっていうことは、見詰めて、そして微笑んで、そして好きになることなんだ』って歌っているんです。なんだかすごい歌だと思いませんか?」

25.小野リサ/o que e amar
26.joao gilberto/isaura
27.nana caymmi/fomicida,corda e flor
28.eduardo gudin & paulo cesar pinheiro/e la se vao meus aneis
29.nara leao/maria
30.pedro paulo castro neves & michel legrand/canto de ossanha-berimbau
31.quarteto em cy/maria e dia
32.MPB-4/sabia
33.alberto rosenblit & mario adnet/ela

 

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