ジョビンのCD(Mar.2007)

 
 「自分の葬式の時はどんなBGMにしようか」なんて話題になる時があります。
 大体みなさん、お気に入りの「これ」っていう曲があるみたいで「じゃあ俺の葬式の時は○○かけて」なんてすぐに決まる場合が多いようです。まあ、ほとんどの人は「ぱあっと明るい曲にしてみんなガンガンお酒飲んでもらって楽しい葬式にしたいなあ」なんてことを言いますが、人によっては「こういう選曲にして、この曲でぐっと泣いてほしいなあ」なんて自分の葬式なのに演出効果なんてものを考えるという面白いパターンもあります。
 私はこの話題になると自分としては「これ」っていう曲が思いつかなくて「いやー、じゃあどうしようかなあ…」なんていつも困ってしまいます。でも心配なのは「自分の葬式には○○をかけて」と指定しておかないとなんか安っぽいボサノヴァのオムニバスCDとかを流されそうなので、今のうちに決めてしまって誰かに「私が死んだら葬式でこれをかけてね」と伝えておかなければ、とも思います。
 もし生演奏が可能な場所なら「友人のミュージシャン達に何か演奏してもらう」というのもありだとは思いますが、みんな控えめな人達が多いので「林くんの葬式?じゃあ、俺が演奏するよ」って手をあげてくれるかどうかがちょっと心配です。もし生演奏大会ということになれば、誰か是非、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」かキャンディーズの「微笑がえし」を演奏してみて下さい。確実に私の妻と娘が泣くと思いますので。
 で、「やっぱりボサノヴァのレコードをかけようよ」ということになれば、出来ればジョアン・ジルベルトじゃなくアントニオ・カルロス・ジョビンのレコードをかけて下さい。その違いは何なのか上手く説明できないのですが、何故か自分の葬式にはジョアンよりもジョビンの方がしっくりくるような気がします。ジョビンのレコードならなんでも良いのですが、どれかひとつだけをずっとリピートにしてかけるというのなら73年の「マチタ・ペレー(米盤のタイトルは『ジョビン』)」にして下さい。このアルバムが流れる自分の葬式ってすごく良いなあって思うんです。もし自分もその葬式に参列出来たら「うわー、良い選曲だなあ」って感心しちゃうはずです。

 ところでそのジョビンのアルバムがやっと日本盤で発売されることになりまして、そのライナーを書きました。その仕事の依頼が来た時は本当に嬉しくて「ああ、こういう作業を細々とずっと続けてきてよかった」と思いました。普通、こういうCDのライナーを書く時、3000字〜4000字で調べる作業も含めると3,4時間で書けてしまうのですが、今回は何度も何度も書き直して1週間くらいかかってしまいました。で、自分の書いたものが内容的に満足できたかというと、「うーん、あれで良かったのかなあ、あまりにも個人的な意見を書き過ぎちゃったかなあ」と多少心配でもあります。

 さらにここ最近、ジョビン仕事が立て続けにありまして、87年にロスでガル・コスタと共演したライブアルバム「リオ・リヴィジテッド」のライナーや、ジョビン生誕80周年を記念したジョビンのヴァーヴとA&M音源からのベスト盤の選曲とライナーもやっています。もし興味がある方は店頭で手にとってみて下さい。

 ちなみに私はどんな文章を書く時も「1行目」というのでお客さんの心をつかむというのを心がけているのですが、今回の3枚はこんな感じです。
 「リオ・リヴィジテッド」:アントニオ・カルロス・ジョビンはたぶん浮気なんかしないタイプだと思います。
 「ジョビンのベスト」:アントニオ・カルロス・ジョビンの代表曲「イパネマの娘」をちょうど聴きながら、みなさんはこれを読んでいると思うのですが、イパネマってどんな場所かご存知でしょうか?
 「ジョビン」:個人的な話で始めてしまって申し訳ないのですが、私がこのアルバムを初めて聴いたのはまだ20才くらいの頃のことでした。

 

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