ブラジル音楽データ・ベースのサイト
 (Oct.2004)
   

 先日、知人に“林さんの生まれた日って、どんなレコードが録音されてました?”と質問されました。これ、即答できました。“ビートルズのアビー・ロードです”。私、実はそんなにビートルズの良い聞き手ではないのですが、アビー・ロードだけはなぜか買ったことがあったんです。で、そのライナーを読んでいたら、録音期間がちょうど私の誕生日と重なっていたんですね。ちなみに私の誕生日は1969年8月7日で、今、色々検索して調べていたら翌日8月8日にあの4人が横断歩道を渡っているジャケット写真を撮影したそうです。いやいや、インターネットってホント便利です。
 ところで、この自分が生まれた日に何が録音されていたかって、なかなかおもしろい遊びですよね。以前だと、私みたいに偶然レコードのライナーを手にして出会わないとわからなかったけど、最近だと自分の誕生日と“録音”とか“recorded”とかをあわせて検索すれば、なんとかみつかりそうですよね。このインターネット時代ならではの遊び、これから流行りそうな予感です。

   そこで今回は、ただのデータ・ベースだけなんだけど使い方によってはかなり楽しめる、使える、というサイトをふたつ紹介します。
 ひとつめは、ホット100ブラジルhttp://www.hot100brasil.com/timemachinemain.html というサイトです。これは1902年から2002年までのブラジルの音楽ヒット・チャートをただデータ化して並べてあるという単純かつわかりやすいサイトです。ただ、まあそれだけなのですが、やっぱりおもしろいです。例えば、ボサノヴァ誕生前夜の1957年はというと、1位はなんとドリス・モンテイロ、上位にチト・マヂやマイーザ、エリゼッチ・カルドーゾはもちろん、なんとシルヴィア・テリスは6位に、ジャコー・ド・バンドリンは11位、ドリヴァル・カイーミは12位といった具合です。で、このブラジル・チャート、やっぱりアメリカ音楽もたくさん入っているわけで、4位がプラターズのオンリー・ユーです。なるほどなるほど、って感じで面白いですよね。さて、翌年1958年のボサノヴァ誕生年ですが、ジョアン・ジルベルトはどうでしょうか。あ、ありました。34位に“シェガ・ジ・サウダージ”がランク・インしています。そうか、そのくらいだったわけですね。その後も、ボサノヴァ・ムーブメントがブラジルでは吹き荒れたということにはなっていますが、なんだか全然ランク・インされていないんですよね。なんだ、つまんないなあ、なんて思って順番に見ていくと、なんと1963年の1位は突然、ジョルジ・ベンの“マシュ・ケ・ナダ”です。そんなに売れていたんですね。ちなみにこの年の26位は坂本九の“スキヤキ”です。なるほど、ですね。そしてその後はやっぱりビートルズとホベルト・カルロスの時代がやって来ます。いやはや、ボサノヴァはそんなにブラジル本国で流行ったわけではないというのは知っていたつもりなんですが、いやあ全滅なんですね。あ、これボサノヴァの曲だ、と思うと、歌っているのはアゴスチーニョ・ドス・サントスかジャイール・ホドリゲス、あるいはペリー・ヒベイロやウイルソン・シモナルといった大衆歌謡路線の男性ヴォーカリストなんですよね。トホホ、ボサノヴァのレコードってあんまり残っていないはずだ、って感じです。これ、現在の日本人の気持ちと当時のブラジル人の気持ちの温度差を、はっきりと数値で感じられるなかなか切ないサイトです。興味のある方は是非、という気持ちです。

 ふたつめは、ヂショナリオMPB http://www.dicionariompb.com.br/ です。ヂショナリオは文字通り(かな…)、辞書の意味です。このサイトに似たものにクリッキ・ムジキ http://cliquemusic.uol.com.br/br/home/home.asp というのがあります。クリッキ・ムジキの方は試聴できたり、関連サイトに飛べたりと、インターネットならではのお楽しみがありますが、こちらのヂショナリオははっきり言って、地味です。しかし、調べモノには最適です。実はクリッキ・ムジキのディスコ・グラフィーはあまり完璧ではなくて、あれれって感じで結構有名なレコードが抜けていたりするんですね。で、うっかりクリッキ・ムジキを完全信頼してしまって、間違ったことを書いてしまっているテキストたまに見かけます。実は私も何度もやりました。一方、このヂショナリオさん、徹底しています。78回転時代のものから、ひたすらリスト化するのに力を注いでいます。そして掲載されているミュージシャン情報もこちらの方が、多いんじゃないでしょうか。例えば、ボサノヴァにはルイス・クラウヂオという人が2人いますが、クリッキ・ムジキの方では今ひとつルイス・クラウヂオ・ハモスの実態がはっきりしません。でも、ヂショナリオの方だと、1935年生まれのルイスはモアシル・サントスの下で学んで、78回転時代から多くのレコードを発表していたのがわかるし、1949年生まれのルイスは1968年からジョニー・アルフやウイルソン・シモナルのところで演奏し、その後ブラズーカに参加、エリス・レジーナやクアルテート・エン・シーのショウに参加というところまでわかります。よく、“ボサノヴァや古いブラジル音楽をコレクションしているのって日本人くらいでしょ”という声を耳にしますが、いやいや、やっぱり本当にコレクターで本当に詳しいのはやっぱり現地のブラジル人なんだなあ、と納得のサイトです。遊びではおもしろくないけど、お仕事の方は是非。


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