E. グジンを聞こう(Apr.2003)

 
 サンパウロは南米最大の都市で、日本の新聞社やテレビ局も南米の支局をここに置いたりする世界規模の情報都市でもあります。私はサンパには行ってないので聞いた話なのですが、彼らはネクタイをして人によってはジャケットも着ているそうなのです。もちろん、リオやバイーアでは結構な繁華街でも、シャツを着ないで短パンだけで歩いている人がたくさんいます。ネクタイやジャケットなんて信じられません。サンパ出身のブラジル人に聞くと、彼らはボサノヴァやサンバなんて全く聞かず、普通にロックやヒップ・ホップを聞いているそうです。全世界の都市の若者と同じ感覚です。

 エドゥアルド・グジンはそんなサンパウロの若いミュージシャンです。しかし、彼はリオ・デ・ジャネイロの50年から60年代のサンバやショーロ、ボサノヴァを自分で現代解釈した音楽だけを演奏しつづけます。そのこだわり方はオタク的とも言えるもので、例えばミナスやバイーア、現在進行形のリオのサンバなどにはほとんど興味を示していません。グジンはボサノヴァやショーロなどはもちろん同時代体験していないはずなので、一生懸命レコードを聞きながらコピーしたのだと思われます。たぶん、彼のレコード棚は相当なコレクションになっているはずでしょう。そんな所が、私達、極東に住むブラジル音楽愛好家の気持ちと重なって、激しく心を揺さぶります。

 グジンは自分の曲に、コレクターにしかわからないような昔のリオの音楽の引用をこっそり忍び込ませます。そして、そこに彼にしか書けないせつないメロディを乗せるので、涙が止まりません。そんな彼の音源を聞きたくても、CDは常に入手困難な状況だし、中古レコード店でもめったに見かけません。個人的に名盤だと思うのは73年のファーストと81年の"fogo calmo〜"と95年のヴェラスのCDなのですが、どれも入手困難です。

 今回オススメしたいのはヴァニア・バストスと共演したアルバムです。ヴァニア・バストスは誤解を恐れず言ってしまうと、国立音大の声楽科を出て、お金持ちのお父さんの仕送りで東京生活をしながらちょっと前衛的な音楽をやっているようなタイプの女性です。そう、おそらくグジンの周りにはそういう育ちや趣味の良い人達がたくさんいるのでしょう。そんな彼女とバックは最小限の編成の音でグジンの代表曲を演奏しています。このアルバムは時々、普通の中古CD店でも安く見かけます。もし機会があれば聞いてみてはいかがでしょうか。

 

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